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奥会津の木地師|民族文化映像研究所


南房総の自然が育むお米と野菜をお届けします。やぎ農園
Photo by ©SHOUJI Naomi

やぎ農園、八木 直樹さんによるレポート

2019年11月の15、16、17と三日間にかけて南極スペースで開催された『100年前 人はどのように暮らしていたか』姫田忠義の記録映画上映会について、やぎ農園の八木 直樹さんがレポートを書いてくださいました。こちら、ご好意により転載の許可をいただきましたのでぜひご一読くださいませ

奥会津の木地師|便利さの陰で失ったもの

先日二夜に続けて、隣りの館山市で開催された記録映画の夜の上映会に参加しました。観たのは、昔の人々の暮らしを記録した映画を数々制作してきた民族文化映像研究所の作品2本です。記録映画なので、ストーリーはなく、ここに言葉で書きとめたとしても、いわゆるネタばれにはならないでしょうから、記憶にとどめるために民族文化映像研究所の代表作といわれる『奥会津の木地師』という作品のおおよその内容を書こうと思います。その凄さは映画を観ないとわからないものですが。

1975年に制作された『奥会津の木地師』。会津田島で、その当時すでに50年前にいなくなっていた木地師たちの暮らしを再現した記録で、80歳と70歳のかつて木地師だった2組の夫婦が、地元の住民とともに作業を行っています。木地師というのは、お椀を削り出す仕事をする人たちで、山から山へと移動しながら暮らしていたそうです。

まず最初に行うのは、3年ほど住むことになる仮の住まいづくりです。まず木を伐採して地ならしをします。そして伐採した木で小屋を組んでいきます。木を結わくのは、若木を使います。葉のついた枝で屋根と壁を吹き、持ち込んだ板を敷いて床をつくります。水は水路をつくり、木を樋に加工して山から引いてきます。これらの作業は、斧や鉈だけで進めます。

奥会津の木地師
『奥会津の木地師』© 民族文化映像研究所

さて、いよいよ材料となる木の伐採です。すでにチェンソーが使われている時代の撮影でしたが、かつての経験者である木地師が、入念に研いだ斧一本で木を伐り倒していきます。次に曲りの強い斧に変え、お椀の原型を目見当で次々と同じ大きさ木塊を切り出してゆきます。勘だけを頼りに進められるこの作業の様子は圧巻です。こうして作られるお椀の原型は、1日に二百数十個だったそうです。その正確さといい、その速さといい、まさに神業で、鍛え上げた人間の技の凄さに引き込まれました。こうしてできたお椀の原型は、妻たちが小屋へ背負い運んで、いよいよお椀づくりです。

奥会津の木地師
『奥会津の木地師』© 民族文化映像研究所

まず、妻たちが両足にお椀の原型を挟んで、回しながら、両手で中をえぐる鑿を打ち込むようにして削っていきます。外側も鉈で削ってゆきます。そしていよいよ手づくりろくろでの削りに入ります。木型を取り付けたろくろの軸に巻き付けた縄を、一人が身体全体を使って左右交互に引っ張り回転させます。そしてもう一人がふいごを使って刃先を整えた鑿を使って、木型を削り、お椀の形にしていきます。

奥会津の木地師
『奥会津の木地師』© 民族文化映像研究所

こうしてできたお椀は、運びだされて漆を塗られ、漆器になります。3年もすると適当な木が周囲になくなってしまうので、また移動して次の土地で同じように小屋を建てるところから新たな毎日が始まる、ということを繰り返してゆくのが、木地師たちの暮らしでした。

今はチェンソーやその他便利な道具もあるし、建築資材を買って来れば、それを使うこともできます。だから、「機械や物のない時代は大変だったね」という見方をする人もいることでしょう。しかし私は、かつては斧や鉈を使いこなして身の回りにあるものを使ってなんでも作っていたこと、そして木地師の振り下ろす斧の一振りひと振りの正確さにとても驚き、「人間の能力ってすごいなあ」と新鮮に感じました。今に生きる私は百姓としていろいろな資材を使っていますが、もう少し自分でつくることを大事にしてみたいと思いました。

今や農業機械の分野でも真っすぐ走らせるためにGPSが使われ始めるようになりました。建築の世界では、大工が工場で機械加工した木材をただ組み立てるだけという工事方法が当たり前になってきました。つねに効率に価値を置き機械任せの方がいいと思われがちな現代ですが、便利さに頼っていくと、人間の持つ能力はどんどん退化してしまうことでしょう。

制作した方のお話しでは、ただ記録しただけなのでこの映画には思想性はないということでした。でも今の私たちが観ると、便利さにより失ってゆくものが多いこと、本来できたことができなくなってしまうことへの警鐘をならしていると受け止めることもできると感じました。

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